十一代将軍家斉の三十八番目の若君長之助は、老臣久保寺平左街門とともに幼少より岡崎藩にあずけられ、居候的な生活を送っていた。その彼が突然甲州鷹取藩五万一千右の城主に封ぜられることになった。老中堀尾備前守は自分の娘が生んだ家斉の若君を鷹取藩主にするため、長之助殺害を企んで岩間五郎太をさしむけた。かつて、岡崎で長之助を救ったことのある旅鴉濡れ髪の半次郎は、鉄火肌の女お蔦、のんきな大阪者弥次喜多の二人と共にの道中で、江戸に向う長之助主従と会った。半次郎は同じ宿で、年貢の金を用だてるため身売りの旅に出ている田舎娘おさきと知りあったが、長之助と彼女は、一目で互いに心を触れ合せたようだった。長之助に対する再三の刺客の襲撃を、半次郎は追い払った。だが乱闘で傷ついた平左衛門は、長之助の身分を半次郎に明かして死んだ。半次郎は長之助を守る決心をして、おさきをお蔦にあずけ、...
泉州岸和田の藩主岡部美濃守の弟辰馬は武家生活を嫌い、町方に居候して音曲の師匠をやる若様やくざ。道楽三昧のある日、彼の許へ屋敷から急使がくる。兄美濃守が勅使饗応の役を仰せつかり、奥方の阿具利が心配の余り辰馬に相談をもちかけたのだった。岡部藩では恒例に従い早速高家筆頭の吉良上野介に莫大な贈物を届けたが、剛直な美濃守はただの扇一本の挨拶で済ます。心配した阿具利から当日の接待法を掘り出してくれと頼まれた辰馬は骨董屋宗加を使って前年の饗応役を勤めた大名の屋敷から詳細な記録を借り出させ、これを写して岡部邸へもちこんでいた。城内で上野介は美濃守に向い役儀について難題をふっかけるが美濃守にはてんで通じない。辰馬は更に、彼に思いを寄せる純情な湯女の糸重を身受けしこれを納得させて吉良邸に女間者として送りこもうとする。かねて言いよっていた吉良家用人の左右田になびくと見せて...