--銀座の片隅の小さな地下のバー“ユトリロ”。五人の客がストリップを見ている。蒸し暑い。客の一人中年の紳士九鬼が、東京湾へ網打ちに行こうと提案した。若い遠山や他のサラリーマンたち、それに女給の直江、道子が同行することになった。その後に木島という日東タイムスの記者が入ってきた。彼は直江と愛しあってきた。直江には高田という失職中の夫があった。木島は別れ話を切り出しかねていた。が、やっと清算するつもりになった。社へ辞表をだし、大阪へ行くことにし、お別れにやってきたのだ。その時、道子が飛びこんできた。「直ちゃんが海へ落ちた!」船上で、客の堀越が直江にたわむれたとき、船がかたむき、彼女と山本が海に落ちた。山本は救われたが、女は潮に流されたという。--遠山は政界のボスの次男で、他の三人は某省の役人である。事件が表沙汰になれば、遠山と三人の汚職が公になる恐れがあ...
毎朝新聞横浜支社勤務の青年記者永瀬一郎は、神奈川県警本部が米兵脱走事件を扱っているとの情報を聞き込んだ。本部では警備二課の佐々木、上村、原などのヴェテランが活動をはじめていた。米兵の名はロバーツといい、捜索願いに来たフランク中尉は、この事件が明るみに出るのを恐れていたという。どうやらロバーツは特殊情報工作に働いていた男で、事件の背後には大陸関係の密輪がからまっているらしい。折も折、佐々木刑事が何者かに殺害され、つづいて当の米兵ロバーツの漂流死体が芝海岸に上るという事態が発生した。そして米国側は捜査打切りを要請してきた。永瀬は山中記者の応援をえて、この事件の核心をあばく決意をした。外国側の事情をいちいち憂慮する捜査方針が彼には我慢ならなかった。佐々木刑事が、殺された夜に姿を見せていたキャバレーの経営者で黒崎という男と、そこの女歌手エミの二人が、何か事情...
時は享保の頃。加賀藩の大槻伝蔵は元は身分の低い小禄であったが、加賀鳶と旗本火消しの争いを見事に裁いたり、また恋人お貞の友人であるお民を藩主吉徳の側室にとりもち、吉徳の重用を受けることになった。大槻はその後も吉徳のために活躍、江戸屋敷での彼の立場は益々上がっていった。やがて吉徳の名代となり、国許への使者を命じられる。だが加賀へついた途端に国家老前田土佐らの怒りを買い、謹慎させられてしまった。これは吉徳直々の手により罪を解かれ、更に出世を果たすのだが、このことにより伝蔵の心には武家社会への懐疑が沸きあがった。そしてこの懐疑はお貞が自分から離れ、吉徳の側室に納まってしまったことにより決定的となり、伝蔵は栄達のためには全てを犠牲にするエゴイストと化してしまった。彼はその後も吉徳の下で更に出世を果たし、千九百八十万石の家老職にまで上り詰めた。だが、吉徳が病に倒...
北海道北端の網走刑務所。殺人傷害8年の刑で服役していた橘真一は、所内で起った脱獄騒ぎには眼もくれず、雑居房の仲間たちの羨望の眼差しに送られて仮出獄となった。さしあたって行くあてもない橘は「社長が俺の保釈金を出してくれる筈だ」という病身の葉山の願いをかなえてやろうと、釧路港の志村運送店へ赴くが、そこは運送店とは名ばかりでオンボロトラックが一台あるきり、とても保釈金を出す余裕などなかった。そんなところへ、オホーツク海側の港町に荷物を運べば莫大な費用を出す、という男安川と金田がやって来た。ちょうど思案にくれていた橘は、葉山の保釈金を得るために、その危険な仕事を買って出たのだが…。
梢葉子は、私淑している作家稲村に原稿を読んでもらうために北海道から上京した。葉子は二十三歳、魅力ある女である。女学生の頃、従足の秋本と恋愛事件を起こし、無理矢理大地主の松川と結婚させられたが飛びだしてきたのだった。葉子は稲村の紹介で出版社有文堂の一色と面識を持った。二人は間もなく恋愛関係をもつようになった。葉子の小説が本になった頃、彼女は青年画家山路を知った。一方、稲村は突然妻を亡くし、一色と別れた葉子との仲は急速に進んでいった。稲村は子供たちの勧めるように結婚にふみ切れなかったが、葉子の若い肉体に溺れていった。しかし上京した秋本が葉子のあとをつけまわすようになると、稲村は葉子を独占できない苛立たしさを感じるようになった。葉子は秋本から今でも生活費の援助を受けていたのだ。気まずくなった葉子は、ある夜、口論のあげく稲村の家を飛びだし、山路の許に走った。...
青白い額に漂う濡れた黒髪。ゾーッとするような女の扼殺死体が、マンホールから発見された。情事か物盗りか警視庁捜査陣は、ベテラン刑事を動員して直ちに捜査を開始した。被害者の身許は、マネキン人形製造会社の事務員。二十六才、子持ちの未亡人で会社の給料を銀行から受取りに行ったまま、行方不明になったもの。会社の同僚は被害者がオパールの指輪をしていたというが、銀行の事務員は金を引出しに来た時は、ヒスイの指輪をしていたという。捜査陣はこの食い違いに事件の隠された謎があると考えた。この指輪と赤い風呂敷包みが死体から紛失していた。この方面の手配から、被害者は生前オパールとヒスイを交換し、その差額の金が会社の経理課長黒木から出ており、二人は特別の関係がある事がわかった。更に、被害者が銀行の前から男と慌てて自動車で走り去ったこと。黒木は女出入りが多く、現在は新橋のバーの女給...
目明かし時代の浜吉の上役井島の妻が金欲しさからヤクザの妾に。井島は、妻への恨みからヤクザ一家と騒動を起こすが、ついには捕り方まで斬り、殺人犯となってしまう。浜吉は涙を呑んで井島を倒す覚悟を決める。