東京の中心から電車で一時間、多摩川を渡ると全く田舎になる。左平の家は代々、梨で知られた果樹園である。長男清太郎が自動車に轢かれて死んだ後、左平は勝造を養子にしてよし子に家をつかせようと思ったが、東京のホテルに勤めている彼女には電気技師の三村という恋人がある。妹もも子は庄六の家に引越して来た音楽学校の学生北小路に仄かな恋心をよせている。三村は沖縄に有望な仕事口が見つかり、よし子と結婚して一緒に行こうというが、彼女は家を見すてる決心がつかない。勝造はよし子に恋人があることを知って悩むが、左平は三村が養子に来て果樹園の仕事をするのでなければ絶対によし子との結婚は許さないという。三村の出発する日は近づいたが、まだよし子の心は決らなかった。その時ホテルの常客ユリがドル買犯人の情婦として逮捕されたが、よし子は三村をはじめ都会の人々のユリに対する態度の冷たさをみて...
エノケンの軽快な唄で映画の幕があく。「さぁ~、お江戸は将軍さまのおひざ元~」このリズムは小津監督の『長屋紳士録』の、のぞきからくりと同じだ!独特の拍子が耳に心地よい。唄と絵で登場人物が紹介される。ちゃっきり金太が榎本健一スリのNO1。金太を狙っている岡っ引きの倉吉(中村是好)、飴屋を装っている徳川方のスパイの三次(二村定一)、金太が贔屓にしている居酒屋の亭主(柳田貞一)とその娘おツウ(市川圭子)、金太を殺したがる薩摩藩士小原葉太郎(如月寛多)。金太とそれを追う連中の東海道珍道中のいざ始まり~。
1868年、幕末の江戸に、錦の旗を掲げて薩長が入ってきた。その中には官軍面して、江戸の人々を困らす傍若無人のヤカラもいた。金太は彼らの懐から財布をスルが、お金と一緒に密書があったことで、薩摩藩士に追いかけられる羽目に。これに岡っ引きの倉吉が加わり...
ダフ屋の取締りを一手にする“ビュイックの牧”は、腕っ節が強くバカ正直で気が短かい。彼はダフ屋の顔役“ラッキョウの健”が、招待券を法外な値で流しているのに腹をたてたが、口八丁手八丁の健に簡単に丸められてしまった。牧にはバープランタンのマダムのタカ子という女があったが、タカ子は健に惚れていた。銀座のプレイガイドの売り子のみち子も健の為に切符の横流しをする程健に熱を上げていた。健はデパートの掃除婦をしている母親のおきみに、新橋裏に小料理屋を持たせたいという望を持っていた。健はダフ屋の親分犬井に歩合を増すといわれ、牧との約束を破って田宮の興行に手を出そうとした。牧が弟のようにしているボクサー島村を酒の肴にして、健が牧をののしると、牧は怒って暴れ警察に留置された。その間に健は切符を売ってしまった。健が貯めた金を預けてあった安全経済会が突然休業し、健はあわて...
社会部のかけ出し記者大久保は、バタヤホテルのおやじの先輩から、山田組事件の中心人物山田の令嬢みどりが銀座界隈に潜んでいると聞き、彼女を求めて黄昏迫る並木通りを歩いていた。しかしそこで彼が見いだしたのはかつての恋人町子だった。その頃みどりは酒場ロオトンヌのマダムあさ子の後釜に、パトロン内田の前に進れてゆかれたが、町子の知らせで大久保が駆け出した時には姿を消していた。新橋裏の旅館の一室、ネオンも消えた夜半過ぎ、みどりの居場所を執拗に聞き出そうとする大久保に、酔った町子は仕事と恋愛を割り切る男心の冷たさを感じ、昔の夢を呼び返す術もなく、みどりが彼女のアパートにいる事を告げた。彼が町子のアパートに駆けつけた時はみどりが訪ねて来た学生と出かけた後だった。総てを諦めた町子は二つの贈り物を残して大坂の商人田村の世話になる事になる。一つは大久保が欲しがっていたみどり...